デザイナーのためのヨーロッパホテルガイド 〜水まわり編〜 Vol.85

シュタイゲンベルガー グランドホテル ハンデルスホフ ライプツィヒ

2013/11/01

Steigenberger Grandhotel Handelshof Salzgäßchen 6

Add: 04109 Leipzig, Germany
Tel: +49 341 350581-960
Fax: +49 341 350581-888
E-mail: leipzig@steigenberger.de
URL: http://www.steigenberger.com/en/Leipzig

エントランス

今までドイツの様々な都市で年越しを経験したが、改めて色々思い出してみると最も心静かに1年を振り返り、清々しい気持ちで新年を迎えることができたのはライプツィヒだった。ライプツィヒでの1年の締めくくりは、大晦日午後1時半に、バッハ縁の聖トーマス教会で少年合唱団の天使の歌声に耳を傾けることから始まる。夕方5時にはゲヴァントハウスに向かい、ベートーベンの第九を聴いて心を引き締める。そして夜10時に再びゲヴァントハウスで年越し特別プログラムのパイプオルガンコンサート。バッハのトッカータの響きがまだ耳に残る中、ゲヴァントハウスのガラス張りのロビーからは、アウグストゥス広場で打ち上げられる新年祝賀の花火が華やかに眼前で飛び散るのだった。今回紹介する「シュタイゲンベルガー・グランドホテル・ハンデルスホフ」(5つ星)と「アルコーナ・リビング・バッハ14」(4つ星)は、そんなライプツィヒの年末年始やこれからシーズンになるクリスマスマーケットを楽しむのに絶好のロケーションなだけでなく、その建築やデザインがライプツィヒの文化史を物語ってくれ、ライプツィヒにしかありえない素敵なホテルだ。

グランドホテルとして生まれ変わった「ハンデルスホフ」は、元は1908年から1909年にかけてライプツィヒ市が建設した見本市宮殿だった。ゲオルク・ヴァイデンバッハとリヒャルト・チャンマーの2人の建築家が、ライプツィヒで初めて当時最先端の鉄筋コンクリート構造を使った建物だった。第2次世界大戦の犠牲になるが、戦後再建され、高級家庭用品やテキスタイルの見本市で賑わっていた。1991年に見本市会場という本来の建物の用途を失った後は、造形美術館の展覧会場として利用されたこともある。シュタイゲンベルガーグループが、新しいグランドホテルに蘇生させる計画がスタートしたのは2005年のことだった。2011年4月にホテルがオープンするまで、破壊されたオリジナル建築の威厳を取り戻す根気強い修復再生作業が続いた。

デザインはライプツィヒ出身で、現在はロイトリンゲンで事務所を開いているコルネリア・マークス=ディーデンホーフェンに一任された。インテリアデザイナーにとって夢のようなホテルプロジェクトを実現するチャンス、それも偶然にも生まれ故郷でのプロジェクトで意気込みも違ったという。「全ては歴史からデザインを引き出しています。ライプツィヒは深い歴史を持つ街、その歴史を呼吸するデザインをコンセプトにラグジュアリーホテルに相応しいアトモスフィアを創造しました。」

メインエントランスを入ると、まず壁のグラフィック模様に目が奪われ、思わず立ち止まってしまう。このパターンにも、ライプツィヒの歴史が詰め込まれているのだ。ミンクのパターンには、当時ライプツィヒが世界的な毛皮取引の中心地で、ブリュール通りだけで800近い毛皮商が軒を並べていた歴史が象徴され、紳士の顔は、ライプツィヒのユダヤ人社会のために貢献した毛皮王ハイム・エイティンゴンの生涯を物語る。

ヴォールト天井のエントランスホールの床には、赤いガラスのモジュールがはめ込まれ、内蔵されたセンサーでゲストの足取りに反応し、ライプツィヒで長年過ごし、数々の名曲を生んだバッハの音楽が聞こえてきたりする。この通路右手がレセプション、左手が客室へのエレベーター & 階段室に繋がり、生け花の香りに惹かれるように真直ぐ進むと、ラウンジ & バーのアトリウム空間が開ける。大理石のレセプションカウンターの背景となるライティングウォールのデザインが衝撃的でさえある。羊皮紙がアーティスティックにコラージュされ、光の効果で紙の重なり部分が影になり、本を積み重ねたようだ。ライプツィヒが書籍印刷技術と書籍取引の中心だった歴史が暗示される。床には樫材のヘリンボーン(魚の骨)のパーケットフローリングを施してある。天井は漆のような光沢で空間を写し、広く感じさせてくれる。カウンターから光る文字は、ゲーテの『ファウスト』からの一節。「ここではおれも人間だ。人間らしく楽しんでいいのだ。」若きゲーテは法律を学びにライプツィヒに来た。しかしゲーテは学業よりも恋愛や酒場での楽しみの方に熱心だったと伝わる。ライプツィヒの酒場も舞台となるゲーテの『ファウスト』はここだけでなく、例えば地下のスパのモザイク壁にもデザインエレメントとして、色々な形でホテルのインテリアに引用されることとなる。

ゲストのリビングルームとして構築されたのが建物5階の吹き抜けのダイナミックなガラス屋根の空間だ。バーで、カフェで、ティールームで、ラウンジで、ヒップなクラブにもなる。奥の1段上がった暖炉のあるラウンジは、メタリックな輝きのファニチャーがファッショナブルだ。

ブラッスリー「ル・グラン」はザクセン地方の伝統料理と南仏スタイルの料理を提供する。

ラウンジからブラッスリーへのコリドールにはガラス張りのヴィノテークも用意されて、ワイン試飲会も開かれる。

客室階へのエレベーター前に、レクラム文庫本をマテリアルにしたオブジェが示唆するように、ライプツィヒは日本なら岩波文庫に相等するだろう黄色いレクラム文庫の故郷(1867年ゲーテの『ファウスト』で創刊)でもあるのだ。また2階の朝食レストランは、ゲヴァントハウス管弦楽団と、昨年創立800周年を祝い来日公演も大成功だった聖トーマス教会合唱団とに捧げた。

客室はスーペリア123室、デラックス40室、ジュニアスイート4室、スイート9室と、プレジデンシャルスイートがある。建築的条件からつくりが同じ部屋は2つとない。同じダブルルームでもホテルの裏側のナッシュ広場に面した最上階の部屋がお薦めだ。歴史的な建築彫刻のバルコニーに出ると、ルネッサンス建築の旧市庁舎が目の前に現れ、見下ろすと旧交易会館証券取引所前に、若き日のゲーテ像も見えるのだ。部屋のインテリアは、ベッドヘッドの白黒のオークの葉っぱを織り上げたパターンがとても大胆だ。焦げ茶や茄子紺色といった暖かい色に、荘厳のゴールド、神秘的な黒と独特のカラーコンビネーションもセンスが光る。バスルームと部屋の間の壁は、バスタブのフォルムに沿ってカーブしている。ブラックとゴールドのモザイクに、ゴージャスな大理石のバス。ひねった短冊のようなガラスのペンダントライトが揺れ動くようなフェミニンなタッチを加える。しかし全く予期していなくてバスルームに入った途端に、視線が釘付けになったのは、トイレとシャワーの左右2枚のガラスドアだ。トイレに使うとは何事かと、ゲーテ信奉者には怒られるかもしれないが、『ファウスト』のテキストをプリントしたドアが忘れられない。

シュタイゲンベルガーグループのホテルはフランクフルトのフランクフルターホフ、デュッセルドルフのパークホテルを利用して、なんだか1970年代の最高級が埃かぶったままのようで全く趣味にあわず、実はもう20年ぐらいシュタイゲンベルガーホテルは避けてきたのだった。しかし近年は老舗を全面改装したり、スタイリッシュなホテルをニューオープンしたり、イメージアップに成功し、ブランドの将来が明るくなってきている。
(注:『ファウスト』からの引用は中公文庫手塚富雄訳)

レセプション

エントランスのコリドール

1F中央、アトリウムのバー & ラウンジ

ブラッスリー「ル・グラン」

スパへの入り口

パブリックトイレ

客室へのエレベーター、階段まわり

客室階のフロア

ナッシュマルクトという広場に面したバルコニー付きダブルルーム

バスルーム

バルコニー付き部屋のあるナッシュマルクト広場側のファサード

バルコニーから旧市庁舎やメードラーパッサージュを見下ろせる

商店街ライヒスシュトラーセに面したスタンダードのダブルルーム

この部屋からは象の装飾で有名なリケー商館が目の前

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