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ホテル・プエルタ・アメリカ(スペイン・マドリード)

2007.05.08

HOTEL PUERTA AMERICA MADRID

Add: Avenida de America, 41, 28002 Madrid, Spain
Tel: +34 917 445 400
Fax: +34 917 445 401
URL: http://www.hoteles-silken.com/

1Fは“流れる空間”をコンセプトにしたザハ・ハディド(Zaha Hadid)のデザイン。純白のロビーから全てがオーガニックで宇宙的だ。“Vortexx”ライトの光はゆっくりと色を変えていく。デビット・ボウイの映画『地球に落ちた男』を今リメイクするならここで撮影してみたい。ベンチもまるで未来から来たアブストラクトな彫刻作品だ。部屋のドアもただのドアではない。“don't disturb”とかのサインがLEDを使ったシステムで廊下側のドアに光り出る仕掛けで、それがまた廊下の光のグラフィック・エレメントでもある。部屋にはホワイト・バージョンとブラック・バージョンの2種類があるが、インテリアがストラクチャーから自然に成長したかで、壁、家具、照明、全てが流動的でシームレス。これはハイテク素材のコリアンに似た人工大理石“LGハイマックス”(LG-Hi-Macs 日本では“アイカハイマックス”として販売)が可能にした。ベッドが壁から成長して、洗面台やバスタブは洞窟のように一体化される。この成形と施工を担当したのがドイツのロスコップ&パートナー社だった。175人の工員の手がハディドやアラッドのフロア、レストランのカウンターを形にした。現地には専門職人がいなくてドイツから職人60人が1ヶ月間マドリード入りしたそうだ。70年代のレトロ風な毛足の長いふかふかカーペットには、掃除が大変そうだとつい余計な心配をしてしまいそうだが。

2Fはノーマン・フォスター卿(Sir Norman Forster)の“アーバン・サンクチュアリ”をコンセプトにしたフロア。スペインのバスク地方サン・セバスチヤーン出身の芸術家エドゥアルド・チリダ(Eduardo Chillida 1924ー2002)にインスピレーションを得た。チリダの彫刻に備わる建築性に通じ、都会の喧噪の中の聖域たる落ち着いた空間。部屋では半分透明なガラスの楕円柱のようなヴォリュームが主役を演じる。中がシャワーだがヴォリューム自体が照明体の機能も持つ。洗面台はオニキスの石のカウンターで、バス・エリアとスリーピング・エリアは境界なく自然に繋がる。クリーム色とブラウンの暖かい色がメインで、革張りのウォール・パネルもシックだ。

3Fもロンドン勢が続いてデビット・チッパーフィールド(David Chipperfield)。クラシックな空間構成の部屋で落ち着いて仕事したい人はここが最適だろう。黒いハンドメードのテラコッタの床、贅沢なシルクと白大理石の壁。選りすぐったマテリアルでシンプルだが洗練されたラグジュアリーの極み。ベッドのヘッドボードは革張りでベッドカバーがシルクで触感も優しい。

4F は若手建築事務所を招待してのコンペで選ばれたプラスマ・スタジオ(Plasma Studio)の実験心旺盛な空間。プエルトリコ出身のエバ・カストロとドイツ出身のホルガー・ケーネ(Eva Castro & Holger Kehne)のデュオは先輩に負けないパワフルな空間造りに成功。特に三角形を複雑に立体的に組み合わせ幾何学的に構築した廊下はクリスタルの中か万華鏡の中に入ったようでもある。部屋ではトイレ、洗面台、ベッドのヘッドボード、デスクがステンレスなのにガラスのバスタブを対照させた。

5Fではセビリアのビクトリオ&ルッキーノ(Victorio & Lucchino)が限りなく装飾的な世界を展開。アンダルシアの熱い風を感じる、スペイン・ファッション界からの客演だ。このフロアの評はキッチュの刻印を押す派とグラマラスでセレブ気分が最高と言う派の賛否両論が分かれる。漆黒の壁のロビーには大理石のスフィンクスが構える。 バロック時代がイマジネーションの源で、彼らがプレタのコレクションに使う素材、リネン、コットン、ベルベットの高級ファブリックをふんだんに使い、これらのマテリアルがゲストを暖かく抱擁する。

6Fはマーク・ニューソン。廊下は壁に真っ赤なラッカー仕上げの木を使い、真っ赤な鏡のトンネル。部屋はグレーと白を基調にまとまっている。白大理石のバスルームとのユニークなパーティションやベッドの頭部のエレメントなどニューソン・スタイルを堪能できる。

7Fがロン・アラッド(Ron Arad)。ロビー中央にはドーナツ型のシート、壁にはめ込まれたモニターの映像に囲まれる。部屋には白と赤のバージョンがある。LGハイマックス素材のバスルームとベッドルームを一体化する多機能なウォール・エレメントがアラッドらしい。アラッドのドローイングのようにダイナミックにうねる赤いエレメントがゲストが自然に部屋を回って動けるように空間をオーガナイズしている。アラッドには申し訳ないがカッペリーニのプロダクトでも丸いベッドが真ん中にあると日本のラブホテルのイメージが浮かんでしまうのは否めない。

8Fはキャサリン・フィンドレー(Kathryn Findlay)がジェイソン・ブラジス(Jason Bruges)と組んだインタラクティブなテクノロジー空間。ロビーから既にインテリアがゲストに反応する。“メモリー・ウォール”がゲストの動きや衣服の色を記憶して照明の雰囲気が変化したりする。床からは不定形のベンチの島が浮上している。“雲の上に浮かぶような瞑想的気分”“微風に耳を澄ます感じ”をデザインで狙ったとするだけに、フェミニンな面もある。白一色の部屋。壁でなく白いカーテンで柔らかく空間機能の境界線が描かれる。バスタブもカーテンのみでセパレート。シャワーがベッドの近くでパートナーの肢体をベッドからも鑑賞できる。

9Fは“箱の中の箱”を基本アイデアにしたリチャード・グルックマン(Richard Gluckman)の軽快でピュアな空間。アルミ、プラスチック、ガラス、セメントの工業素材を意外な方法で使っている。半透明のガラス・ウォールに青か黄色にイルミネーションされるニッチが目を引く。何か芸術作品を置いてあっていいはずの場所は空のまま。バスルームは大きなガラスのボックスに入っている形だ。

10Fはホテルで唯一の東洋への旅。磯崎新がクリエートした陰翳礼讃の世界。ダークなオーク材の家具に黒のカーペットの部屋と白大理石に木のバスタブの水回り、空間の明暗のコントラストが印象深い。小さな窓がバスルームと部屋との間に視覚上のコミュニケーションを促す。障子の格子がモダニズムの光をファサードから部屋へ引き込む。谷崎文学を何か1冊バックに忍ばせてこの部屋、或は日本から運ばれた「エステックウッド」(S-TECH-WOOD)の湯船の中で読むと最高だろう。この日本の木のスノコにVolaを組み合わせたシャワーも実に美しい。

11Fはハビエル・マリスカル(Javiel Mariscal)がフェルナンド サラス(Fernando Salas)と組んで“グッド・バイブレーション”をモットーにデザイン、陽気で遊び心いっぱいの最もグラフィカルなデザインの階。色使いも大胆。ロビーでは何故かコリアン製の水玉模様のサボテンに挨拶される。部屋の収納棚は楽しいグラフィックのドアを開閉し、ベッドカバーも幾何学的な柄で床はマルチカラーのタイル、細部までエネルギーの塊の元気デザインだ。

ホテルの最上階には再びジャン・ヌーヴェルが登場。12Fのスイートとスペクタクルなマドリードの景色が広がる13Fのルーフテラスにプールとバー。スイートは東京とパリの2人の写真家、荒木経惟とアラン・フレシェール(Alain Fleischer)へのオマージュでもある。荒木経惟の着物姿の日本女性と花の写真が大きなスライド式のパネルになって空間にストラクチャーを与えるインテリア・エレメントとして機能している。バスエリアをインテリアからクローズしたいかオープンにしたいか、ゲストは自分でパネルを動かし自由に決められるのだ。

照明コンセプトはアーノルド・チャン(Arnold Chan)が率いるロンドンのアイソメトリックス・ライティング+デザイン(Isometrix Lighting + Design)に一任された。またホテルの建物と四季の変化に合わせて植物がコレスポンデントする周囲のガーデンパークはランドスケープ建築家のジョナサン・ベルとハリエット・ボーン(B+B / Jonathan Bell / Harriet Bourne)のコンセプト。2007年に100歳の誕生日を迎えるブラジルの伝説的建築家オスカー・ニーマイヤー(Oskar Niemeyer)の詩的な鎌のフォルムの彫刻がハイライトだ。

ところでゲストの側としてはチェックイン時に全フロアを案内してもらい、どのフロアに泊まりたいかを選ぶシステムが理想だが実際はそうはいかない。様々なタイプの部屋を体験したいがために一晩ずつ階を移動するゲストも多い。このデザイン・マルチプレックス・ホテルでは1泊しかできないゲストの悩みは尽きない。そう考えるとゲストの心理にはかなり酷なホテルかもしれない。別なフロアの部屋にすればよかったか気になって夜中に目が覚めてしまいそうだ。安眠するにはマドリードに12日間滞在するしかないのだろうか。

文責 / 小町英恵
写真提供 / HOTEL PUERTA AMERICA MADRID