デザイナーのためのヨーロッパホテルガイド 〜水まわり編〜 Vol.75

ホテル・ル・キャンベラ (フランス・カンヌ)

2010.10.20

Hotel Le Canberra

Add: 120, rue d’Antibes 06400 Cannes France
Tel: +33.4.97.06.95.00
Fax: +33.4.92.98.03.47
E-mail: hotel.canberra@hotels-ocre-azur.com
URL: http://www.hotel-cannes-canberra.com

カンヌの目抜き通り、アンティーブ通りに面したブティックホテル。

  太平洋岸の街で育ったからか、水平線の彼方には未知の素晴らしい何かが待っていると、海岸から眺める水平線の向こうに、子供の頃からとても憧れていた。私の住むハノーファーは内陸の都市で、どこに行っても水平線は現れてくれない。北ドイツの短い夏も終わり、これからまた暗くて長い冬がやって来るかと思うとその前にどうしても青い海と水平線を見ておきたくなった。どの海でもよかったのだが、格安エアラインでラストミニットの週末フライトが取れたのがなぜかニースだけ。とにかく急なプランだったので、到着日にはニースだとお目当てのホテルはリーズナブルな部屋がどこもとれず、まずはカンヌに1泊することにした。

  洗練されたデザインのブティックホテル「ル・キャンベラ」 (4ツ星) はカンヌの目抜き通り、駅と海岸の中間の東西に長く伸びるにぎやかなアンティーブ通りに建つ。最高級ブランドの店やデラックスホテルがズラリと並ぶ海岸沿いのクロワゼット大通りとは雰囲気も違って、ちょっと庶民的で初めてなのに自分のアパルトマンに戻るかの親近感があった。このホテルは全面改装をパリの著名な建築家でインテリアデザイナーのジャン・フィリップ・ニュエルが手掛け、2009年に新しく生まれ変わった。ニュエルは1961年生まれ、パリ国立美術学校で建築を学び、ル・メリディアン、ラディソン、インターコンチネンタルなど大手ホテルチェーンにも引っ張りだこの才腕インテリアデザイナーだ。洋菓子店の「アンリ・シャルパンティエ」や「ポーラ・ザ・ビューティ銀座店」 (JCDデザインアワード2010受賞) など、日本でも高く評価されている。「ホテルはマイホームを越えた空間でなければならない。デザインはゲストを心地よくサプライズすべきだ。旅の思い出、出会いの思い出、発見の思い出、人それぞれが旅先で記憶に残しておきたいモーメントを書き綴ったその人だけの物語が生まれるように。」ニュエルのこういったホテルデザイン哲学がル・キャンベラでも見事に具体化されている。

  1886年に設計されたクラシックな建築の中に足を踏み入れた瞬間に、最初のデザイン・サプライズに歓迎される。大理石の階段に大胆な白黒のストライプの壁だけなら驚かないが、天井からピンクの光が階段室全体に降り注ぎ、空気までピンクに染まっていたからだ。往年の映画『マイ・フェア・レディ』で、ピンクの造花のブーケをあしらった帽子に、白黒ストライプの大きなリボンが印象的なオードリー・ヘップバーンの装いを空間に移行したかのデザインである。ニュエルはル・キャンベラのデザインで1950年代、1960年代の今とはまた違った映画界の華やかさ、グラマラスな映画の魅惑世界をコンテンポラリーに表現している。

  レセプションの男性スタッフのネクタイも淡いピンク色で、ラウンジにもピンクの椅子が混じり、部屋にもピンクのソファが一つ、バスルームにもピンクのサプライズ効果が待つという具合で、嫌みのないきれいなピンクが、館内の可憐なアクセントになっている。ラウンジの一番奥の壁一面を1950年代のクロワゼットの白黒写真が占め、オートクチュールのプリーツドレスのスカートのようなビッグサイズのランプシェードから、夜は暖かい光が透けて差す。またホテルでは、フランスのミッドセンチュリーモダンの巨匠デザイナー、常にイノベイティブであったピエール・ポラン (1927年ー2009年) の代表作に座れるのも嬉しい。ホテルのラウンジには「オレンジスライス」、明るく白に統一された「ル・カフェ・ブラン」のテーブル席には「リトルチューリップ」が配された。ガラス張りのサンルーム風なレストランは、その白いレザーの椅子達が背景の庭の竹の葉の緑や、プールの薄緑のモザイクと鮮やかにハーモニーする。ホテルの裏庭はアンティーブ通りの喧噪が届かないくつろぎのオアシスだ。ブーゲンビリアや椰子の木もまさに南仏のイメージ。午後のカンヌ散策に出る前にコートダジュールの空の下、竹林に囲まれたプールで一泳ぎすると、ドイツの曇り空と冷たい雨をすっかり忘れて心身ともにシャキっと元気になった。

  客室階のエレベーターを出ると予期せぬサプライズにびっくりさせられた。それは騙し写真とでもいおうか、壁に人物の原寸大の写真を飾ってあるのだが、タキシードのジャケットを脱いで小粋に肩にかけた男は、私達に気がついてふと振り向く。
実際にはない廊下を、本当にその写真のごとく正装したカップルが、カンヌ映画祭のパーティーからほろ酔い加減で部屋に向かって歩いていると、一瞬信用してしまうのだ。

  客室は全30室&5スイート。キルティングした白いレザーのベッドヘッド、そのベッドヘッドの鏡張りのシルバー効果のあるフレームやシルバーのファブリック等、ハリウッドスター女優の楽屋をイメージしたくもなる。レセプションカウンターも白いキルティングレザーだったが、同じ仕様が部屋のスツールにも使われ、この辺にもホテルがトータルデザインされていることが改めて認識される。部屋のカーテンはパリのピエール・フレィ社にオーダーメードされた。プリーツの風合いが特徴で、『7年目の浮気』の映画で地下鉄通気口の上で、フワリとセクシーに舞い上がるマリリン・モンローの白いドレスのスカートにインスピレーションされたのではないかと想像してしまう。

  木目の美しいドアを開けると、バスルームも部屋に負けずにスタイリッシュだ。星屑のように光が当たるとキラキラする黒い石の洗面カウンターに、比較的浅い長方形のマットな黒の洗面器、鏡は大きな楕円形、アントニオ・チッテリオがデザインしたアクサーの水栓にシャープに光が反射する。トイレは漆のごとく黒く艶光りするタイルに囲まれる。左半分のバスエリアは対照的にクリーンな白が基調になる。しかしバスルームの照明をオンにするとこれもニュエルが仕掛けた心地よいサプライズで、バスタブ上のライトからピンクの光が降り注ぐという趣向だ。お湯まで桜湯のように淡くピンクに染まったかで、愉しくてついつい誰でも長湯になりそうだ。

  夕方また海岸に出かけた。クロワゼットの遊歩道には、誰でも自由に使える空色の椅子があちこち置いてある。屋台で缶ビールとホットサンドイッチを買って、カンヌ風物詩の一つのような空色の椅子で、夕焼けから夜景に変わるコートダジュールの自然ドラマを堪能する。するともう1980年代から聴いたこともなかった曲、「ハーバーライトが、、、その時一羽のカモメが飛んだ」と渡辺真知子のかつてのヒット曲が、突然口から出てきた。「ラ・メール」のシャンソンでなく「カモメが飛んだ日」か、何年ヨーロッパで暮らしても昭和人だなあ、と苦笑いしたのだった。


不動産屋など小さなお店の間の入り口はちょっと見過ごしてしまいそうなくらい

裏通りから竹やヤシの木のガーデン越しに見たホテル。


通りに面したメインエントランスから、レセプションへのピンクの光に包まれた階段室。ホテルはパリの建築家、ジャン・フィリップ・ニュエルのデザイン。


左右のニッチには蘭の花がゲストにウェルカム。




ホテルは1950年代、1960年代のシネマ、当時のカンヌ映画祭の独特の華やかさを現代と結んだデザイン。ラウンジバーではピエール・ポラン (1927年−2009年) のチェア「オレンジ・スライス」もピンク色バージョンでポップに春の花が咲いているよう。



1950年代のクロワゼットの白黒写真がラウンジの奥の壁一面に広がる。プリーツドレスのスカートのようなビッグサイズのランプシェードから柔らかい光に照らされる。

「ル・カフェ・ブラン」ウィンターガーデン席。朝食もここで。明るい白に統一されたインテリア。夏はガラス戸を開けてオープンテラス席に続く。

地下のパブリックトイレの手洗いコーナー。どっしりと重量感ある黒い洗面器がゼブラウッドのカウンターに映える。
ディナー用のテーブルセッティング。
ピエール・ポランのアームチェア「リトル・チューリップ」で、モダンな地中海料理を楽しめる。

都会のオアシスのようなガーデンサイド。アンティーブ通りの喧噪も忘れる。

プールを見下ろすカフェテラス。

プールは竹林に囲まれ10月からは温水になり一年中泳げる。
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