デザイナーのためのヨーロッパホテルガイド 〜水まわり編〜 Vol.88

コンセルヴァトリウムホテル (オランダ・アムステルダム)   1

2015/03/02

Conservatorium Hotel

Add:Van Baerlestraat 27 NL-1071 AN Amsterdam
Tel:(0031 0) 205 70 00 00
URL:www.conservatoriumhotel.com

ファン・バールレ通りの正面ファサードとエントランス。

炎の画家フィンセント・ファン・ゴッホの没後125年を記念して、2015年は故郷オランダ各地で様々な企画が組まれている。世界最大のゴッホのコレクションを誇るアムステルダムのゴッホ美術館ももちろん例外でなく、秋には(2015年9月25日~)、ゴッホとエドヴァルド・ムンクの名作が一堂に会する貴重な特別展が開催される。このゴッホ美術館と、パウルス・ポッター通りを挟んですぐの筋向かいに位置するハイエンドなデザインホテル(5つ星)が、「コンセルヴァトリウム」だ。10年にも渡る改装工事を経て、更に魅力を増し、レンブラントの「夜警」必見のアムステルダム国立美術館や、いつも興味深いデザイン展で人気の市立現代美術館もすぐ向かい側、世界的なコンサートホールのコンセルトヘボウにも近い。昼も夜も文化三昧というアムステルダム観光には願ってもない、理想的なロケーションだけでも「コンセルヴァトリウム」を宿に選ぶには、十分な理由となりえるのだが、歴史的建築とピエロ・リッソーニのインテリアデザインがホテルに融合したとなれば、なおさらのことだ。

音楽院を表す「コンセルヴァトリウム」というホテルの名前から察しがつくかもしれないが、ホテルにトランスフォームされる前、この建物は1980年代からスウェーリンク音楽院の学舎であった。ファン・バールレ通りに面した正面から入ると、まずエントランスのヴァイオリンのインスタレーションに目を奪われる。シャンデリアのクリスタルの輝きに歓迎されるのではない。天井から吊り下がる何十体ものヴァイオリンのモビール、ナイジェル・ケネディが弾くバッハが響いてきそうだ。客室(全129室)が、かつては音楽家を目指す若き才能達が稽古するピアノ、ヴァイオリン、チェロ、フルート、各々が違う曲を奏でる色々な楽器の音に満ちていたんだなあ、と想像してみた。

それは美しく、見事に修復された煉瓦の建物は、19世紀末にオランダの建築家ダニエル・クヌッテルの設計で建設された。(ホテルへのトランスフォーム建築デザイン:MVSA Architects 建築修復:Van Stigt Architecten)本来は郵便貯蓄銀行だったので、タイルの装飾模様にも貯金や勤労を暗示するモチーフが残っていたりする。アート & 工芸ミュージアムに入ったかのようで、旧館の各階の廊下や階段室を散策して、ステンドグラスやタイル画、様々な造形のディテール、絵画のような窓枠の中の街風景を見学しているだけでも、あっという間に時間が経つ。自由に腰を下ろせる、ちょっとしたラウンジ的コーナーが所々に用意されているのも嬉しい。

過去には中庭だったアウトドアスペースが、ガラス張りの新しい巨大なウィンターガーデンのインドアスペースになり、レセプション、ロビーラウンジ、ブラッスリーが配された。「私はいつも中間にいる生き方がいい」と言うリッソーニに似合う、外と内の中間の空間だ。ホテルを初めて訪れるゲストは、このカテドラルの雰囲気さえ漂い、光に満ちるアトリウム空間に、心地よく驚かされることとなる。エレベーターやミーティングルームを内蔵するトラバーチンとガラスのボックス、黒いスチールのオープンな階段がドラマチック性を増す。ホテルの建築デザインは、新旧のコントラストが激しい。しかし、それが逆に新旧双方の美しさをより強調している。ホテルのインテリアはポリフォニックに響くデザインだ。

バーも音楽に絡んで「チューンズ」と呼ばれる。ゲストがテーブル席についていると失礼になるので、バーがまだ閉店中にギャラリーの席をゆっくり歩いてみたい。というのも壁にかかるミュージシャンの写真がどれも素敵で、足が止まってしまうのだ。スヒロ・ファン・クーフォルデングがシェフのグルメレストランも、私が滞在した時はバーと同じ名前だったのが、半年前に名前も「タイコ」と変わり、コンセプトもアジアンキィジーヌに変わってしてしまったので、空間構造は同じでも、ワインボトルでなく酒瓶がズラリと並んだり、インテリアもアジアンに変化した。食事中には太鼓の演奏も入るとか。

「コンセルヴァトリウム」は、デイヴィット・チッパーフィールドが手がけたロンドンのホテル「カフェ・ロイヤル」同様に、「ザ・セット(The Set)」というまだ若いホテルコレクションに属する。同じビジョンを持ちながらも、各々のホテルが街とその建築の歴史背景にコネクトし、コンテンポラリーなデザインで、各々独自のアイデンティティーを持つラグジュアリーホテルをクリエイトしていくとのこと。昨年インテリアが競売にかけられて話題になったが、パリのアールデコの老舗ホテル「ルテシア」のリニューアル(ジャン・ミッシェル・ヴィルモットが担当)が現在進行中で、2年後に予定される再オープンが待ち遠しい。

ダニエル・クヌッテル設計の19世紀末建築。

エントランスホール。ヴァイオリンのインスタレーションが、旧音楽院の歴史を語る。

ヴォールト天井も美しいエレガントなショッピングギャラリーが、旧館1Fフロアの中央のエントランスホールの左右に続く。

階段室脇の壁は民族博物館の展示のよう。

100年前のタイル。クモの巣や蜂のユニークな模様。

黒ガラスのリッソーニのデザインによる、シャープなレセプションカウンター。

アトリウム最上階からレセプション方向を見下ろしてみる。

かつての中庭が、ガラス屋根の巨大なウィンターガーデン的スペースに。中央にゆったりとしたシックなラウンジ。友人宅のリビングルームにお邪魔する感覚。ヴィンテージのカーペットを組み合わせたのも面白い。時代、スタイルをミックスし、マルチカルチャーなアムステルダムの気風にマッチ。

ラウンジとブラッスリーを半分オープン、半分クローズにするデザインのアイデア。透明なガラスの棚が空間を分け、半地下から生える竹林、デザインミュージアムのコレクションのような陶磁器やエスプレッソメーカーの展示が適度に目隠しの役目もする。

ブラッスリーでの朝食。

古い建築と、新しい建築の調和。黒いガラスボックスには、エレベーターや会議室が隠れる。

眺めが一段一段変化し、昇り降りが楽しくて仕方なくなるスチールの階段。