光と重力
ニューヨーク郊外、別荘地として有名なギャリソンに建つ夫婦のための住宅である。緑が豊かで閑静な敷地からは近くを流れるハドソン川が見え、夕日が水面に反射して輝く様子が印象的だ。設計したのはスペイン・マドリードの建築家、アルベルト・カンポ・バエザ氏。2009年にはTOTOギャラリー・間で展覧会「カンポ・バエザの建築」が開催され、代表作の「グラナダ貯蓄銀行本社」(『a+u』0307)をはじめとするミニマルかつ光を象徴的に扱う作品で多くの人を惹きつけた。なぜ光を重視するかについて氏は、光と重力こそが建築家にとっての2大テーマであり、「光とは物質の耐えがたい重力を、軽さへと変換できる唯一のもの」だからと答えている(『アルベルト・カンポ・バエザ 光の建築』、2009、TOTO出版)。




「More with Less」
本作品は、恵まれた敷地の利点を生かすために、非常に明快な構成を採用している。まず、37×16.5×3.6mのコンクリートの箱を基壇として築き、その上に30.4×12mの屋根を架ける。屋根は6×6m間隔のグリッドに沿った10本の円筒状の列柱によって2.7m持ち上げられ、屋根の下に28.6×7.6mのガラスボックスが置かれた。列柱の前列5本は居住スペースであるガラスボックスの外側に、後列5本は内側に配置することで、室内外の透過性が一層強調されている。
緑の中のガラスボックスというと、ミース・ファン・デル・ローエによる「ファンズワース邸」を想起するかもしれない。たしかに、壁ではなく、機能を持った箱によってエリアを分け、家具を移動させることによって空間を自由に使うことができる点も「ファンズワース邸」と共通している。ミースは「Less is More」を唱えたが、カンポ・バエザ氏は「More with Less」(=より少ないもので、より豊かなものを)を提唱している。

バスルーム。

バスルーム。

断面詳細図。
空間および素材との調和
コンクリートの箱の中には寝室と浴室が納められている。浴室タイルはブラジルから輸入され、すべてのピースは各部屋に合わせた特注。中でも、化粧室には無垢大理石から削り出された洗面ボウルが使われている。水栓とシャワー水栓はアルネ・ヤコブセンがデザインしたVOLA(Vola Faucet line)のステンレス仕上げで、浴槽にはZuma、アンダーカウンターシンクにはVilleroy & Bochが使われている。これらすべての器具は、空間の面の統一性、そして大理石仕上げとの調和をさらに高めるために選ばれた。マスターバスルームにあるふたつのフレームレスのメディスンキャビネット(ROBERN)以外のガラスと鏡は、設計図に合わせて地元業者によって手配された。(a+u)


Credits and Data
- Project title
- Olnick Spanu House
- Location
- Garrison, New York, USA
- Area
- 900㎡
- Design
- 2003
- Completion
- 2008
- Architect
- Alberto Campo Baeza, Estudio Arquitectura Campo Baeza
- Project Manager
- Miguel Garcia- Quismondo
- Collaborator
- Ignacio Aguirre
- Structural Engineers
- Michael P. Carr, P.E., Maria Conception Perez Gutierrez
- MEP Engineers
- D'Antonio Consulting Engineers
- General Consultants
- Massimo & Lella Vignelli
- Contractor & Site Supervision
- Kimmel Construction
- Plumbing Fixtures
- VOLA
- Photographs
- Javier Callejas
株式会社エー・アンド・ユー
1971年1月、株式会社新建築社を母体として株式会社エー・アンド・ユーを設立するとともに、月刊『a+u/建築と都市』を創刊。『a+u/建築と都市』は、世界の建築情報を国内外へ提供するために、和英バイリンガルで創刊された月刊誌。 新鮮な建築情報は、海外からも高い評価があり、現在世界110カ国で購読されています。
http://www.japlusu.com

2022/01/05
富山県 消滅集落のオーベルジュ「Cuisine régionale L’évo」
人口わずか500人の富山県南砺市利賀村に、かつて存在した集落である「田之島」。一度は消滅したこの集落を、まるごとホスピタリティの空間としてデザインした、究極の地産地消を目指したオーベルジュ。地域に根差した文化や建築様式を読み取りデザインすることで、この場所ならではの新しい風景をつくった。
素材を大切にするこの施設では、食材はもちろん、水にまでこだわっている。周辺の山間から集められた澤水によって活動が成り立つこの施設において、衛生器具は、ここでの体験を演出する重要な役割を担う。土着的な建築デザインの趣に馴染みながらも、ラグジュアリーな宿泊空間を演出できる器具を模索する中で、洗練されたフォルムのグレー色の陶器に辿り着いた。施設の空間を象徴するデザインのひとつとなった。
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2021/08/02
東京都 南麻布の家
都内屈指の公園に面し、窓からは隣接する公園の樹木、遠景には東京タワーを望むヴィンテージマンションのリノベーション。都心でありながらここまで自然に囲まれた環境は唯一無二であり、まるで軽井沢の森の中にいる感覚を味わえる立地の良いお住まいだった。そこで公園の風景を各部屋で最大限楽しめる計画とし、インテリア素材は公園の樹木と呼応する素材をちりばめ、室内と屋外が連続するように設計した。
元々2カ所あった浴室は、それぞれ個性が異なる空間となるよう、1方はバスタブのある浴室、もう1方はシャワールームとした。ほとんどの生活を海外拠点や軽井沢で過ごされるお施主様にとって、プライベートホテルのような使い方も想定し、ホテルのような落ち着いた雰囲気になじむセラトレーディングの商品を選定した。
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2021/03/31
神奈川県 葉山加地邸
国の登録有形文化財として登録された、1928年竣工のプレーリースタイルの邸宅をホテルにリノベーションしたプロジェクト。
当時の設計はフランク・ロイド・ライトの弟子の遠藤新。彼の作品のなかでも特にフランク・ロイド・ライトの直接的な影響が幾何学模様を駆使したデザインなどに現れている。わたしたちは歴史を継承しながらも、従来の保存という枠を超えて現代のライフスタイルに合致した新たなデザインを生み出すことを目標とした。
具体的には、文化財の最重要箇所は保存に徹したうえで、プレーリースタイルの哲学を表す幾何学をモチーフに新たなデザインを作り出し家具等様々な場所に活用した。また文化財保存に影響なく変更できる部分を活用し、地下に吹抜けの浴室をつくるという大胆なプログラムを提案した。浴室では歴史や様式を継承しつつ、現代的なシンプルさを表現するのに十分なデザイン性をもった水栓金具を選定した。
わたしたちが目指したのは、現代と過去との対話を表現し、新たな生活を楽しんでもらうためのデザインである。
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2020/12/01
東京都 側庭の家
二世帯住宅の建て替え計画。
北と西側が道路の角地で、斜め向かいには保育園があり、子供たちの元気な声が響き渡る環境だった。まず道路境界からオフセットして住空間にかざすように壁(側壁)を建て、その内側に角地の建蔽率緩和を利用し、ゆったりした住空間を計画した。
住宅地では建築を敷地の片側に配置し、残った部分を主庭や前庭にする住宅をよく見かける。また、都市部の住宅では、プライバシーを守る住環境を確保するために中庭形式をとる家も多い。この敷地でも南側に主庭を設けたり、中庭を設けるボリュームチェックも行ったが、残地部分が限られてしまい、良好な庭・環境が確保出来ない。そこで始めに設定した側壁に沿って庭を分配し、側壁と住空間の開口を調整して、音や視線から守られつつも、光や風は取り入れられるバッファーゾーンを確保した。またその開口を通し道路から空が見え、視線が抜けるようにすることで、外部への圧迫感の緩和を図った。
側壁の外側、道路との間が「外側庭」、内側の住空間との間が「内側庭」となり、外側庭は道行く人たちに季節ごとに緑の変化を提供し、内側庭には一日や一年、時間により様々な光が差し込む。
外側庭を空地に自生したような風情にすることで、完成当初からそこに存在していたような佇まいにして「年月で朽ちる家ではなく育つ家を」と言う要望に応えた。
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