デザイナーのためのヨーロッパホテルガイド 〜水まわり編〜 Vol.80

マノワール・ド・レビオル(ベルギー・スパ)

2011.11.14

Manoir de Lébioles

Add: Domaine de Lébioles 1/5 à B-4900 Spa (Creppe)
Tel: +32 (0)87.79.19.00.
Fax: +32 (0)87.79.19.99.
E-mail: manoir@
manoirdelebioles.com

URL: http://www.manoirdelebioles.com

ベルギーの温泉保養地スパの郊外にあるマナーハウスを改装したブティックホテル。
蔦が絡みいばら姫が眠るお城のようにメルヘンチック。


時計塔付きの正面門構え。

門を入って噴水のある大広場の向こうに、ネオルネサンス様式のマナーハウスが現れる。

庭園から見たマナーハウス。1階左の間がグルメレストラン。アーケードの下にバーのテラス席。


手入れの行き届いた庭園。



夜はカラフルなイルミネーションで、幻想的な雰囲気に変わる。

ホテルとは1年遅れの2007年にオープンしたウェルネスセンター。



エントランスホールの暖炉のあるロビーラウンジ。木の円柱は、柱頭の古典的彫刻が見事。

  スパはアルデンヌの森の中の温泉郷、多くの鉱泉に恵まれた水の小都は、今や世界共通で使われる言葉「スパ」の語源となっている。華やかな頃の面影は今は薄れたが、18世紀19世紀には南ベルギーのワロン地方にあるこの温泉保養地に、ロシアのピョートル大帝を始め、ヨーロッパの王侯貴族や作家のアレクサンドル・デュマなど著名人が心身を癒しにやってきたそうだ。オーストリア皇帝のヨゼフ2世がスパを“ヨーロッパのカフェハウス”と愛でたほどだった。

  ホテル「マノワール・ド・レビオル」はスパの郊外に隠れ建つ。このスモール&ラグジュアリーなホテルへの道のりは、ジェットコースターもどきのデコボコ道で、急カーブをこなさねばならなかった。どうも車のナビにホテルの住所を入れると、最短走行時間ルートはスパを通らない険しい裏道ルートになるようなのだ。こんなところに本当にホテルがあるのか一抹の不安が過る中、やっと門構えが現れ、童話の中から出てきたようなマナーハウスを目の前にして胸を撫で下ろし「これぞ“眠れるアルデンヌの森の美女”なり」と感嘆の声を上げてしまった。

  ネオルネサンス様式で設計された歴史主義の館と、それに属する広大な庭園がアルデンヌの自然風景の中に溶け込む。お城の風格もある館は、もともとはベルギー国王レオポルド1世の時代に外交官だったジョルジュ・ネイト(国王の婚外子)が満ち足りた余生を過ごすために建設した離宮のようなものだった。1910年に5年の歳月をかけ完成し、その当時はスパの人々に「アルデンヌのプチ・ヴェルサイユ宮殿」と称えられていたという。ネイトの死後は、リエージュの富裕な実業家ドレッセ一族に譲渡される。また第一次世界大戦末にはドイツ占領軍の大本営として利用され、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世も滞在し、ドイツ帝国崩壊の歴史とも深く繋がる。その後70年に渡りドレッセ家の邸宅となり、シアター上演が行われたり、スパの社交界で重要な位置を占めていた。1980年に売却されたマナーハウスは、まずは「オテル・ド・シャルム」というホテルとして親しまれていたが、21世紀に入って老朽化も激しくなり、オーナーもまた変わり経営不振に陥いる。「本当に色々大変だったんだね」とマナーハウスの肩をたたいてあげたくなるような建物の運命だ。

  そしてまたしてもオーナーが変わり、今度はドイツ人の女流実業家アンネ・リュッセンが建築文化遺産の維持に尽力をかけたのだった。丸1年に及ぶ全面リニューアルの結果、ホテル「マノワール・ド・レビオル」として蘇り、2006年に再スタートを切る。ドイツのインテリアデザイナー、ザビーネ・メシェロフスキーのディレクションで、古典的な装飾ディティール、伝統的な木彫職人芸、修復された様々なオリジナル建築の魅力が活かされ、ヒストリーとコンテンポラリーが融和したホテル空間がクリエートされた。メシェロフスキーはこのプロジェクトだけでなく、オーストリアのスパホテル「マドレイン」や「アエネアス」でもタイムレスなデザインで評価されている。

  吹き抜けのメインホールから古い木の階段を上り客室フロアへ向かうと、黒いガラスのモダンでゴージャスなシャンデリアがそれは印象的だ。階段を上りきると、シャンデリアの黒からライブラリーの赤い彩りへと導かれる。ホテルは16室のみで2つと同じ部屋はない。スパに来るのはきっとこれが最初で最後と思ったので、一度だけだからとロイヤルスイート(73㎡)に決めた。デザインの違う古い大理石の暖炉が2つも残されている。天蓋はかけずにフレームだけの天蓋ベッドに独特の気品が感じられる。塔の部分の円形スペースにはシェーズロングが配され、出窓からはアルデンヌの自然風景が目の前に広がる。バスルームはトイレとシャワーのフレームのないカスタムメードのガラスのドアとパーティションが特徴だ。目隠しのためにガラスに貼られた抽象的パターンのフィルムが、空間にアーティスティックな性格を与える。木の床が裸足にも気持ちいい。使われた石はベルギー産のブルーストーンだ。バスタブは床からのスポットの光に演出され、夜は更に存在感を増した。ただシャワーは混合栓を操作するグリップ部分が破損していることに翌朝まで気付かず、なんとか動かすことは可能なのだが、髪をシャンプーするのに一端水をとめた私が甘かった。シャンプーのせいで指が滑って、再びシャワーの水を出すまで格闘することとなった。

  グルメレストランでのディナーの後は、夜風にあたり神秘的にイルミネーションされた庭園を散歩してみよう。今夜はきっと素敵な夢が見られるに違いないとうつろうつろしてきたら、どうも部屋の匂いが気になって仕方ない。換気口からだろうか。そういえば部屋に戻るとき、ホールや階段でもこの匂いがしていた。部屋は厨房の上ではないのだが、鴨をローストしたオーブンからの匂いが漂ってくるのだ。だんだん気持ちが悪くなってきたが、グッドアイデアが閃いた。部屋に用意されていたオレンジの香りを嗅げばいいのではないか。道化師の赤いプラスチックの鼻のように、オレンジをぎゅっと鼻に寄せて呼吸し続けた。

  朝食代わりに昨晩のカロリーを消耗しようとスパに向かう。モダンな増築のスパは水、風、火、土の四大元素からデザインがイメージされた。それはいいのだがカウンターにも誰もいないし、タオルも見当たらず、一泳ぎした後でのドリンクも一体誰にオーダーするのかはわからなかった。バーにもバーキーパーがいなくてレセプションのスタッフがバーもついでに担当しているということ。あまりサービスにはこだわらない私でも小さな欠落点の集積で、これで経営大丈夫なのだろうかと心配してしまった。スパの街の観光業の将来のためにも、この地域で最もハイデザインなホテルであるだけに、問題点を改善して真にハイクオリティーなホテルになんとか成長してほしいと願う。

床は市松模様の大理石。椅子に張ったベルベットの模様やカーテンの色もしっくりと空間にマッチ。
ホール奥中央の重い木の扉を開けると、アルデンヌの風景が広がる。

木の階段の手摺の一部に、木とは思えないほどリアルに岩石を表現した木彫刻のディティール。

エントランスホールの階段脇にレセプションカウンター。

主階段の踊り場から見下ろしたロビー。
エントランスホールの上階、ギャラリースタイルの階段まわり。黒いシャンデリアがアイキャッチャー。

階段を上がったところの赤いライブラリー。
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