「時間」という概念を持つリノベーション
築30年が経ったマンションの一室のリノベーションプロジェクトである。装飾的な廻り縁や幅木などの小さな細工の集積、装飾的な家具によってこの空間は特徴付けられていた。そのような装飾の様式は時代性をもっているが故に、時間の経過と共に空間自体の彩度が下がり、古い様式のインテリアといった印象が色濃くなりがちである。ここでは、年月をかけてこの空間に馴染んでいった家具や、この空間と共にある家族の記憶などを残しつつ、空間の鮮度をよみがえらせる手法として「時間」という概念を設計に加えることとした。既存の廻り縁、巾木などのフレームを面影として活かして、それらが新旧を関係づける新たな役割となり、空間を印象づける要素として空間を継承する。既に存在している家具に対して、時間を遡るようにそれらの表面に施された仕上げを削り、できるだけ表面に仕上げがなされる前の無垢な状態に戻していく。また新たな素材を使用する箇所については、時間の経過が良さに変わる素材を選出し、装飾部に用いられた細かな細工にみられる「陰影」を拠り所に細部を設計していった。それらの操作により、完成から未完成へと逆行する新たな感覚が付加された、懐かしくも新しい空間を目指した。
二世帯の家族が住む事になり、みんなが集まるリビングでは広く明るい空間が求められた。既存のキッチンはリビングとの間に壁があって独立しており、陽が当たらなかった。その間仕切り壁を解体し、さらに個室も一部屋分解体することで、広さを確保。また、浴室、洗面、トイレなどの水まわりはプランから見直し、今の使い勝手に合うように刷新した。