デザイナーのためのヨーロッパホテルガイド 〜水まわり編〜 Vol.105

サー・ニコライ(ドイツ・ハンブルク)

2018/06/01

Sir Nikolai

Add:Katharinenstraße 29, 20457 Hamburg
Tel:040-29996660
E-Mail:hello@sirnikolaihotel.com
URL:http://www.sirhotels.com/nikolai

ハンブルク旧市街のニコライ運河に面する。写真左から2軒目7階建てがホテル。

ハンブルクの新しいランドマークとなったエルプフィルハーモニー。このコンサートホールの奇跡的建築が大磁力となり、ハンブルク観光は空前の大ブーム。新しいホテルが次々と開発され、今年だけでも14ホテルがオープンするという。昨年も様々なホテルがオープンしたが、その中でも「サー・ニコライ」は飛び抜けて個性的なブティックホテルだ。スタイリッシュであると同時に、どこかとてもアットホームな空気が流れる。ドイツの旅行雑誌『GEO saison』が「ヨーロッパの最も美しいホテルベスト100」を12年来毎年選出(フランスのデザイナー、マタリ・クラッセも審査員)しているが、今年のシティホテル部門で「サー・ニコライ」がナンバーワンに輝いたばかりだ。

ホテルはハンブルク旧市街ニコライ地区のニコライ運河に面する。商人と船人の守護聖人、聖ニコラウスの名をとったハンブルク最古の運河の1つで、この運河は中世のハンブルク港でここに着いた品々が船で沿岸の倉庫に運搬された。ホテルの建物も昔は農作物種子の倉庫だった時代もあった。ハンブルクの歴史的中心街と、世界文化遺産の倉庫街やエルプフィルハーモニーも建つ未来的なハーフェンシティ(エルベ河岸の旧港湾地区を再開発した街)との間に位置し、観光にもビジネスにも便利なロケーションだ。運河側はホテルの後ろ姿で、正面玄関はカタリーネン通りとなる。この界隈は再開発事業が進行中で、まだ寂れた感じもあり、ホテルはホットスポットだけど隠れ家的でもある。19世紀末にコントーアハウスと呼ばれる立派な商館になった建物で何度も改築され、ホテルに変貌する前は某保険会社の本社だった。ホテルのエントランス上にある石の美しい装飾的彫刻が、唯一そのまま保存されていた商館の建築エレメントとのことである。
「サー・ニコライ」はホテルマネジメントのEHPC 社(Europe Hotel Private Collection) 傘下で、アムステルダムを拠点に近年ベルリンやイビザ島にも進出を果たしているブティックホテルのニューブランド「サー・ホテルズ」に属する。オーナーはホテル経営者というより、ホテルカルチャー・クリエイターという方が似合っていそうなイスラエル出身のリラン・ウィズマン氏で、ホテルが街環境と融合し、街環境を刺激し、街の一部となることを理念に掲げる。ハイアットやマンダリンオリエンタルもクライアントというホスピタリティーデザインのエキスパート、アムステルダムのスタジオFGステイル(Colin Finnegan & Gerard Glintmeijer)がインテリアを担当した。

実際にサーの称号を持つニコライなる人物が存在し、ホテリエになったかのようなストーリー性がデザインのコンセプトになった。ニコライ氏は異国を巡り歩くロマンチックな旅人として歳月を過ごしていたが、ある日故郷の自由ハンザ都市ハンブルクに異色な旅土産の数々とともに帰還する。ハンブルク人に典型的な“ハンザ風”と言われるアンダーステイトメントで、且つダンディな紳士だ。想像上だけの架空の人物なのに、なんとなくニコライ氏にホテルのどこかでばったり遭遇しそうな気もしてくる。ニコライ氏が代々受け継いだアンティークや古美術に、自身の旅土産の異文化のアイテムと、コンテンポラリーなデザインファニチャー、それら異質のモノ達がデザイナーの才腕でエレガントに混在し、ニコライ氏の小宇宙をクリエートしている。1930年代のアールデコが北欧デザインと調和してもいる。オープニングの時にデザイナーから面白い発言があったと聞いた。「招待客の女性の大半がハイヒールで現れて嬉しい。新しい木の床は、ハイヒールが一番簡単に傷をつけて古くしてくれるから。どんな木でも古くなれば全て美しい。」使い込まれ古くなって増々深みが出てくるのを計算してデザインしてあるようだ。

エントランスのテラゾの床は、ヴェネツィアへの旅の思い出、運河を彩る宮殿の床を連想させる。地上から半階高くなっている1階の「スタディ」というスペースに大理石の階段を12段上る。ライブラリー、ロビーラウンジとレセプションが合体したサロン的な空間で、ホテルのロビーという雰囲気でなく、ハンブルクの由緒ある家のディナーに呼ばれて、まずはアペリティフでもいかが?と、リビングで会話を始めるようなイメージが浮かぶ。レセプションデスクが壁を背にせず、スペースの中央にアイランドのように配されているのもユニークだ。 続いてホテルの心臓部である「ザ・パティオ」の空間が開ける。パティオの名が示唆するように、かつての中庭がスチールコンストラクションのガラス張りの可動式の屋根で覆われた。宝石色のベルベットのゴージャスな椅子、重厚な書棚、大理石の暖炉。ここでは特にお茶は鉄瓶で、スイーツはお重に盛られる和風アフタヌーンティーが女性客に評判とのこと。パティオには、こちらも今人気のアジアンキッチン&バー「IZAKAYA」のテーブル席があり、晴天の夏の夜にはガラス屋根が開き、星空の下でディナーとなる。もはやソーセージより寿司?というくらいにドイツでも日本食がブームだけど、「IZAKAYA」はモダンな和食と南米ペルー料理との独創的フュージョン料理をハイエンドな居酒屋とでもいえるスタイルで楽しむ趣向だ。パティオから更に奥には、かつての倉庫空間を外壁と支柱だけ残して壁を取り除いた、よりカジュアルなショーキッチンのレストラン&360°のバー空間が広がる。最奥の外のテラス席は運河に浮かぶようだ。最も印象的なのが驚くほど長いテーブルと、ブラッシュアップで限りない光沢を得たステンレススチールの天井、エルベ川を北海へと流れる水をイメージしたのかもしれない。

客室は元々商館の小分けされたオフィスだった構造をそのまま利用し、改装時に壁を外したり移動したりしてはいない。よって広々としてはいないが限られたスペースにデザイナーのアイデアがいっぱい詰まっている。「サー・ブティック」から「サー・レジデンス」まで、5タイプ全94室の部屋のインテリアにもニコライ氏の趣味が反映する。特に真鍮のバーワゴンの存在感があった。クリーニングは毎日細かいところの作業が本当に大変だろう、ご苦労様です!バスルームはベッドルームと比べると、とても広々と感じられる。ダークな天然石の洗面ボウルに蛇口の上部が開いたウォーターフォールのスタイルの水栓が組み合わされた。日本庭園の情緒がなきにしもあらず。そしてトイレで便座に腰掛けふと気がつくと、葛飾北斎の浮世絵のプリントが飾られているではないか。こんな格好で眺めたことはなかったので記憶に刻まれ、この絵の富士山と桜の景色はもう忘れることはないだろう。

ラウンジではドリンクがサービスとのことで、クーラーに冷えたスパークリングワインのボトルを通りがけに発見してしまったのが良かったのか悪かったのか、他に誰もいなくて居心地が良過ぎたのもあって、バーでカクテルも飲んだ(「テンノー」とか「ハラキリ」なるカクテルも有)のに深夜までつい飲み続けてしまった。翌朝は朝食なしで予約しておいて良かったと、しみじみ思ったのだった。

ハンブルク港地区の元は商館&倉庫だった古い建物をホテルにして再生。

カタリーネン通り側の正面ファサード。

メインエントランス。19世紀の商館のオリジナルの建築装飾が残る。

エントランスホール。テラゾの床。正面の階段を上るとレストランとバー。左手にはステンレススチールのレストラン用ウェルカムデスク。折り紙のような立体的構造のタイル壁。

エントランスから左に曲がって階段を上ると、ホテルの「スタディ」。ロビーだけどロビー然りとせず、ニコライ氏の私邸のサロンに招待されたかのようなプライベート感がある。まずは通りに面したエリアのスタディ。

スペースの中央にどっしりとしたレセプションテーブル。

奥の方のラウンジコーナー。レストランでもある「パティオ」の空間に繋がる。

元は中庭だったスペースを利用した「パティオ」。ガラスの屋根は開閉自在で夏に天気が良ければ星空の下でディナーも可能。ディナー用セッティング状態。

本棚のアレンジのディテール。

パティオから更に奥にコンテンポラリーな和食とペルー料理のフュージョンが人気のレストラン&バー「IZAKAYA」が開ける。

ショーキッチン。

長いオーガニックなフォルムの木のテーブルと研磨したステンレスの天井が川の流れを表現。

夏はガラス張りのバルコニーに出られる。

バー。

夜はDJも登場。

シャンパーニュと日本酒がクーラーに仲良く並ぶ。

クテルのクリエーションにも日本文化を意識。せっかくのドリンクの色が見えないカップでちょっとがっかり。私は「東京トラッシュ・ベイビー」(和三盆入り)、ヘニングさんはなんと「テンノー」(スパークリング酒入り)をセレクト。「ハラキリ」というのもあったがさすがにこれは勘弁。

エントランスとバーの間の通路。階段の壁の額には蝶々が入っている。

アートインスタレーションのようなバーへの黒い通路トンネル。様々なサイズの鏡の額が光り、ドラマチックに狭い空間を演出。

客室階へのエレベーター室も凝っている。エントランスからロビーへの階段脇に位置。

客室階のフロア。泊まったのは最もお手頃なカテゴリーで411号室。

商館の事務室が客室に改装された。部屋に入って右壁に書机(兼化粧机)と、他のホテルではお目にかかったことのない真鍮のバーワゴン。置かれているインテリア小物から壁を飾る様々なアート、写真、オブジェまで、驚くほどの凝り具合。

バスルームからベッド方向を見たところ。オープンだがクローズにしたい時は、写真左手のトイレのドアを部屋方向に開けるとほぼクローズ状態になる。

入って左側が洗面台。奥が鏡張りでベッドルームが映る。大理石の洗面ボウルにウォーターフォールスタイルに水が流れる上部がオープンな水栓の組み合わせが斬新だ。

さりげなく、水栓の操作方法をオシャレに明記。

バスルーム右側のトイレとシャワーのドア。タオル掛け兼用のドアの取っ手。

シャワーブース。

トイレ。ドイツのトイレで北斎の品川御殿山からの桜と富士山の浮世絵(もちろん今日の印刷物)に遭遇するとは想像にも及ばなかった。

バスローブのデザインもとてもユニーク。スリッパも同様のグレーである。