デザイナーのためのヨーロッパホテルガイド 〜水まわり編〜 Vol.92

ハイアット・リージェンシー・ニース パレ・ドゥ・ラ・メディテラネ(フランス・ニース)

2016/03/01

HYATT REGENCY NICE PALAIS DE LA MÉDITERRANÉE

Add:13 Promenade des Anglais 06011 Nice, France
Tel:+33 (0) 4 93 27 12 34
Fax:+33 (0) 4 93 27 13 34
URL:http://nice.regency.hyatt.com

ニースの天使の湾を一望するアールデコ建築のホテル。

ニースの天使の湾に沿って、プロムナード・デ・ザングレが東西に伸びる。椰子の木が並び、南国の雰囲気が漂う海岸遊歩道だ。この大通りに面して、ニースで最もユニークなファサード建築を今に残すホテルが「ハイアット リージェンシー ニース パレ ド ラ メディテラネ」である。同じ通りにあるホテル「ル・ネグレスコ」(次ページで紹介)のベル・エポック建築と、パレ・ ド・ ラ ・メディテラネ(地中海の宮殿)のアールデコ建築はランドマークとなっていて、その2つの建築からニースの街の現代物語が綴られてきた。アントワーヌ・サルトリオによるファサードのレリーフ彫刻は、地中海に昇る太陽の光を背景に、2頭の海の馬から駆け上がり、空にはカモメが飛び交い、女神が豊かな自然の恵みを象徴する。夜には照明効果で、よりドラマチックに馬や女神の輪郭が浮き上がる。

パレ・ ド・ ラ ・メディテラネは、元々カジノを中心としたゴージャスな娯楽施設で、1929年にシャルル&マルセル・ダルマスの設計で完成した。今のファサードの柱の間が、地中海に向けて比類ないパノラマウィンドーだったのだ。2つの世界大戦の狭間、黄金の1920年代、グラマラスな1930年代には。世界のショーウィンドーたる華やかな存在だった。ジャンヌ・モローがギャンブルに身を崩す女を演じた、ジャック・ドゥミ監督の映画「天使の入り江」に出てくるカジノの建物である。ここのカジノは、当時モンテカルロのカジノと肩を並べる社交界の花形舞台だった。オープニングには、アメリカの富豪グールド夫妻の招待で、チャップリンを始め、当時のセレブ達が国内外から集まった。1,000人収容の劇場では、エディット・ピアフ、ジョゼフィン・ベーカーやルイ・アームストロング、デューク・エリントン等、世界のトップスター達がステージに上がったものだった。

1978年には、ニースのカジノ戦争とも言われたそうだが、カジノ所有権を巡るごたごたに巻き込まれ、建築保護法下にあったファサードだけ残し、建物は解体されてしまう。2004年にやっと修復再建され、デラックスホテルとして再生した。コンコルドホテル & リゾートから、3年前にハイアットが譲り受け、現在に至っている。

「シンプリシティの創造性」をモットーに掲げるデザイナー、シヴィル・ド・マルジェリー(SMデザイン社)がホテルのインテリアを手掛けた。パリのマンダリンオリエンタルの客室やスパのインテリアも彼女の仕事である。パレ・ ド・ ラ ・メディテラネの館内のロビーなど、アールデコの装飾的なエレメントやマテリアル、色を効果的に使い、華やかな時代の空気を蘇らせると同時に今日性も忘れない、コンテンポラリー・アールデコなインテリアに仕上がっている。

パブリックスペースのハイライトは、3Fのガーデンテラス。かつてカジノだった空間だ。特にフロントファサードの柱間にあるテーブル席で、グラスを傾けながら夕陽が沈む絶景を待つのはとてもロマンチックだ。ホテルのラウンジバーやレストラン「ル・トロワジエム」(Le 3e)も、屋根のないアトリウム的な空間のガーデンテラスに面している。プールは温水で、ニースには珍しく、冬でもアウトドアで泳ぐことができた。

客室はスイート9室を含む全187室で、その多くは3Fのガーデンテラスをコの字型に囲んでバルコニーが付く。位置によりファサードの構造が視界を妨げ、必ずしも海がよく見えるわけではなさそうだ。海が見える部屋を予約しておいたら、思いがけないクリスマスプレゼントで、このホテル最高の「ペントハウス・スイート」にアップグレードされ、本当にびっくりしてしまった。最上階9Fのスイートは117㎡もの広さで、バスルームはベッドルームよりも広く、バスタブも子供なら泳げるほどのビッグサイズだ。ルーフテラスに出て更に驚いた。宿泊するのは2人だけなのに、シェーズ・ロングからソファ、チェアまで、数えたら12人分の椅子が用意されてある。カンヌ映画祭の時などひょっとしてプライベートのパーティーを開いたりするセレブもいるのかなあと想像する。西はアンティーブ岬の背後に沈む太陽から、東は水平線の向こうに昇る太陽まで、素晴らしい眺め。インテリアは快適さを追求したデザインだ。このスイートのデザインで最も印象的だったのが、エントランスとリビングダイニングを結ぶ、長いフロアの途中にあるゲスト用ベッド。壁に掛けられた音符が飛び交うアートが示唆するように、ここは究極のリスニングスペースだった。iPhoneに入っているスターバト・マーテル(ホーフシュテッター指揮)を響かせてみた。仰向けになって音楽に集中する。一晩中でもこうして聴いていたいほどの心地よさだった。
(普通はホテルのインテリアは写真の方が実際よりも魅力的に見える場合が多いのだが、このスイートは天井が比較的低いこともあってか、どうも写真にうまく空間が収まらず、現物のインテリアの方が写真より魅力だったことを付記しておきたい。)

日の出の時刻にあわせて早起きして、まだ人影も疎らな海岸遊歩道をジョギングして、帰りに焼きたてのクロワッサンをパン屋で買ってお部屋でお茶を入れて朝食にした。お茶を飲みながらスイートをぐるりと見回すと冗談ではなく広かった。こんなアップグレードはもうないだろうと、チェックアウトの時間3分前までギリギリ居座ったのだった。

ファサードを飾るのはアントワーヌ・サルトリオ(1885年マントン生まれで103歳まで生きたフランスの彫刻家)のレリーフ。

プロムナードに面したエントランス。昨年12月25日の滞在だったので、エントランスホールにはクリスマスツリー。ロビーとレセプションホール。

ロビーのラウンジ。

ロビーからエレベーターコーナーへの通路。フラワーアレンジもクリスマスをイメージ。

エレベーターコーナー。エレベーターの向かい側にコンピュータ、電話、トイレのコーナー。

客室は3Fのガーデンテラスをコの字に囲む。

夕刻のガーデンテラス。

冬の朝日を浴びるガーデンテラス。

レストラン「ル・トロワジエム」のテラス席。

温水アウトドアプールとそのテラス。スパのインドアプールと繋がる。

3Fガーデンテラスに続くレストラン「ル・トロワジエム」。

3Fプールのテラスに面したラウンジバー「ル・トロワジエム」。グランドピアノの上にアレンジされた何気ない生花もオシャレ。

9F最上階の客室フロア。

ペントハウス・スイート927号室へのエントランス。

扉を開けてまず目がいくのは開き戸の向こうの自然光あふれるバスルーム。

リビング更にルーフテラスへのフロア。ベンチに続くのは音楽鑑賞に最高なゲスト用ベッド。

117㎡のスイートで最もラグジュアリーな空間がバスルーム。

水まわりはスクエアがデザインのキーワード。ドイツのジーガー・デザインの洗面器「2nd Floor」(デュラビット)もスクエア型ですっきりと。

バスルームと寝室の間の引き戸を挟んで、左右に2つの洗面台。

写真右手はスイートのエントランスとの間の引き戸。

バスタブ後方右手にシャワーブース。

バスタブ後方左手がトイレ。

バスルームとリビングの間に寝室。牡丹色のアクセント。引き戸で繋がり全部開けた状態だと開放感が倍増。

リビングダイニング。

ダイニングコーナー。

エスプリの効いたデザインのフロアランプと、ハンドクラフトが感じられる棚の扉の取手。

ダイニングのカーペットの幾何学模様。

サウンド効果も最高のゲスト用ベッドとその化粧室。

ルーフテラスとその眺め。