デザイナーのためのヨーロッパホテルガイド 〜水まわり編〜 Vol.93

ネスト・ホテル & スパ(ベルギー・ナミュール)

2016/06/01

NE5T Hotel & Spa

Add:26, Allée de Menton 5000 NAMUR Belgium
Tel:+32 (0)81 58 88 88
E-Mail:info@ne5t.com URL:http://ne5t.com

古い農家をリノベーションし、6スイートのみのラグジュアリー隠れ家スパホテル「ネスト」に生まれ変わった。

ベルギーの首都ブリュッセルから南東へ約60km、ムーズ河岸の古い城下町ナミュールは「ムーズ川の真珠」と喩えられる光景の街だ。人口10万人ほどだが、ワロン文化圏の中心都市でもある。実はナミュールが旅の目的で「ネスト・ホテル & スパ」に泊まることになったのではない。ハノーファーからフランスに向けて車で出かけると、どうしても途中で1泊しないと距離的に不可能なだけなのだった。グーグルマップで計算したら、ノルマンディー方面へのルートは、ナミュールが時間的にもベストな位置という偶然の結果だ。どうせ夕方着いて翌朝もすぐ発つだけと、ブッキングドットコムでなんとなく選んだのだった。それが現地に着いたらあらゆる点で予期せぬ素晴らしさに驚き、感動さえしてしまったのだ。

中世初期のフランク王国時代に建設された城壁(シタデル)のある小高い丘をぐるっと車で回り、ルドルフ・シュタイナーの建築のようなデザインの門を発見するまでは、本当にこの閑静な住宅街の中に予約した宿があるのか、半信半疑になるくらいだった。そして駐車場に入る直前、木の根元から地上に持ち上がるようなオーガニックなランドマーク的パビリオン建築を目にし、唖然となった。音楽批評家ヘニングさんの言葉を借りると“ドビュッシーの「沈める寺」の感覚”だったそう。パビリオンの中は14人まで収容でき、ミーティング、プライベートシネマにも利用可能な多目的空間に構成されていた。

「ネスト・ホテル & スパ」は隠れ家的なアーバンラグジュアリーリゾート。19世紀の大農家の今では使い道のなくなった建物コンプレクスのオーナーが、なんと構想から10年もの歳月をかけ、妥協を許さず修復改装し、夢を追い続けた結果だ。オリジナル建築への尊敬と愛が、建築デザインのディテールからひしひしと伝わってくる。ホテル名「ネスト」の意味の通り、ゲストが「巣」と感じられる心地よさのミクロコスモスを築き上げた。ネスト(Nest)の綴りは意図的にSの箇所が5の数字に置き変えられている。ジョークでなく、このホテルのデザインコンセプトが、5に暗示されているのだ。木、火、金属、水、土という5元素の調和を目指したのだった。施設の中心には生命の源となる水のエレメントが、プールの形になった。空と周囲の木々の自然が四角い水面に映し出され、泳いでこの美しいイメージを破壊するのが口惜しくなりそうなほどだ。金属のエレメントは例えば更衣室のドアの錆鉄に表れるのだった。

エコロジカル&バイオロジカルな建築を研究実践し「建築と自然」という名の設計事務所をナミュール近郊のタンプルーで主宰する建築家ユヴェール・ソヴァージュが、廃農家をサステイナブルに21世紀のホスピタリティ空間に蘇生させる難仕事を成し遂げた。インテリアはナミュール近郊のウェピオンのデザイナー、ピエール・ブライとオーナー夫人とのコラボレーションが実ったものである。

宿泊施設は「コージーネスト」、スパは「ウェルネスト」、レストランは「リンクネスト」と呼ばれる。ネストの客室はたった6室のスイートだけで、全室のデザインテーマが異なる。私達の一番小さい「コージー・スイート」でも55㎡の広さだ。農家建築の小屋組の屋根構造や梁が空間デザインに活かされ、各室ともバスルームのデザインが凝りに凝っている。モナコ大公のアルベール2世や、ベルギーのフィリップ王夫妻も滞在されたそうだ。

朝食は、お花のアレンジから食器のコンビネーション、角製のオブジェのようなソルト&ペッパーミルなど、まず食べる前からテーブルのセッティングが素敵で嬉しくなった。パン入れの器も粘土を造形する陶芸家の手が見えてくるような触感がある。するととても気さくで感じのいい人がキッチンから出てきて、朝のご挨拶をして「卵はいかがいたしましょうか」と尋ねてくれた。何も前知識がなかったので、てっきり朝食担当に雇われている地元スタッフと思っていたが、ちょっと話をしているうちに、実はこのホテルのオーナーのブノワ・ゲルスドルフ(Benoît Gersdorff)氏で、ベルギーの著名なシェフとのことでびっくりしてしまった。

そうとわかっていたら茹で卵でなく、せめてオムレツでも頼めばよかったと後悔した。でも茹で卵が鶏の足を象った斬新なアイデアの白磁のエッグスタンドで登場した時「これはすごい!茹で卵にしてよかった!」気分を取り直した。ミシュランの星付きのシェフに茹でてもらう茹で卵なんてこれが最初で最後かもと思い、一匙一匙をしみじみと味わったのだった。

ランドマークにもなった小パビリオン建築。ミーティング、カンファレンス、シネマ等、多目的に使える。ネスト=巣、鳩の家も連想させるオーガニック建築。

ホテルのサインも自然に溶け合う。

表通りに面しているゲストルームの館。メタルの門もオーガニックなデザイン。

ホテルのロビーラウンジ。

レストラン「リンクネスト」

写真奥のスペースがキッチン。写真右側はプールが見える席。

オーナーであり、著名なシェフである、ゲルスドルフ氏が朝食を用意してくれた。テーブルセッティングにもため息が出た。エッグスタンドも驚きのデザイン。

建築コンプレクスの中央にプール。水に映る自然が美しい。(注:写真はシーズン外の状態)

更衣室の錆鉄のドアも趣き深い。

スパ「ウェルネスト」への入り口。

ゲストルームの棟。

庭のデザインも凝っている。まだ新緑には早過ぎ、枯葉の状態でも錆鉄や煉瓦色と調和して美しい。

部屋への階段もオーガニックなデザイン。上り下りがちょっとした冒険感覚。

「コージー・スイート」のドア。

リビングルーム、ラウンジコーナー。

ワーキングのコーナー。

ネストと鳥の巣だから、部屋のキーホルダーも鳥。

リビングから奥のバスルーム、寝室方向を見る。廊下左手にトイレ。

バスルーム中央に2人が斜めに向かい合い、鏡の取り付け具合もユニークな洗面台。バスルームの左半分がドレッシングルームを兼ね、洗面台を挟んで左の壁側にクローゼット。

廊下を挟んでトイレの反対側の空間をモザイクストーン張りでシャワーブースに利用。

バスルームから寝室へとオープンに繋がる。

ベッドはスウェーデンの最高級寝具ブランド、馬の毛を使うヘステンス社のもの。