拡大を続ける北欧最大級のデザインフェスティバル
毎年6月にデンマーク・コペンハーゲンで開催されるデザインイベント「3daysofdesign(以下3days)」。2013年に倉庫街で始まった小さなイベントは今年で13回目を数え、37か国から572の展示、12万5千人を動員するデザインフェスティバルへと成長した。展示エリアも中心部から離れた場所へ拡大を続け、非公式イベントも増加。規模が大きくなるとともにイベントを取り巻く状況は変わりつつあり、3日間だけではとても見きれなくなっている。
日本でも年々知名度が上がっているが、きっかけは2022年に新型コロナウィルスの影響でミラノサローネが6月に延期され、開催時期が連動(ミラノサローネは6月7日~12日、3daysは6月15日~17日)したこと。ミラノでの発表をスキップし、3daysに照準を合わせる北欧ブランドが増えてきた時期でもあり、世界中のバイヤーや建築家、メディアがミラノからそのままコペンハーゲンへハシゴするという流れが生まれ、メディアやSNSで発信されて、3daysの国際的な地位が急上昇した。現在では、ミラノデザインウィークで関係者たちが「次はコペンハーゲンで!」と挨拶を交わすのが定番となっている。
初夏の光が美しいコペンハーゲンで、デザイン展示を巡る心地よさ
ミラノの圧倒的な規模感と比較して、3daysにはサローネのような見本市会場はなく、コンパクトなコペンハーゲンで街中のショールームや倉庫やカフェを借りた展示会場を巡るスタイル。自転車で回れる距離感だ。街全体を舞台にした誰もに開かれたイベントではあるが、その名称の通り3日間、水曜から金曜まで平日の開催のため、実質はデザイン業界の関係者が中心。派手な演出よりもヒュッゲ(デンマーク語の心地よさ)を大切にし、今のところミラノのようなファッションブランドや大企業による没入型イベントを体験しに多くの人が詰めかけるエンターテイメント性はなく、あくまでビジネスの場である。
Photo:Carl Hansen & Søn
Photo:Carl Hansen & Søn
初夏の北欧の気持ちのよい天候のなか(時には寒いこともあるが)、各会場で振る舞われるドリンクを片手に出展者、デザイナー、来場者がゆったりコミュニケーションをとれるアットホームな雰囲気が魅力。新作は展示品として眺めるだけではなく、実際に座ったり使ったりして体験できる展示方式が多く、実際の生活空間に近いリアルなスケールでデザインを体感できるため、製品のある暮らしを想像しやすい。こうした点がミラノの巨大イベントの行列や目まぐるしさに疲弊気味だったデザインコミュニティに、理想的なデザインイベントのあり方として評価された感がある。
こうして北欧ローカルのイベントから、ミラノサローネに次ぐヨーロッパの重要なデザインフェスティバルへとステップアップした3days。Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)、Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)、Fredericia(フレデリシア)、HAY(ヘイ)やMuuto(ムート)、&Tradition(アンドトラディション)などのデンマークブランドは、新作発表とともに見応えのある展示を行っているほか、新進ブランドや若手デザイナーたちの発表の場としても機能している。出展料は売上規模に応じて設定されているため、自ずと大企業が小規模メーカーや個人の出展を支えるデモクラティックな仕組みになっているのも北欧らしい。また、伝統的な北欧の木工家具ブランドをはじめとした現地メーカーは3daysの会期前後にディーラーやプレス向けに工場見学ツアーを組み、ストーリーテリングにも力を入れている。
デザインミュージアム周辺にはショールームも多く展示が集中するほか、ARK JOURNAL、Openhouse Magazineなどのインテリアデザイン誌が、3daysに出展したいという海外ブランドのニーズをうまく掴んで、大きな会場に有名ブランドを集め、キュレーションをしながら立体的なイベントを企画するなど、存在感を増している。
また、ミラノでも企業、個人ともに多くのオーディオスピーカーの展示が目立っていたが、コペンハーゲンでもオーディオの存在感は大きかった。コロナ禍でライブやパーティーができなかった頃に、家のオーディオ環境を整えたいと思う人が多かったことから開発が進み、このところそれが形になって顕在化してきているのかもしれない。
Photos : Fritz Hansen
Photos : Fritz Hansen
ミニマルなデザイン、木製家具やクラフトマンシップへの敬意など、共通の美意識や親和性を背景に、日本や韓国からの出展も年を追うごとに増加。なかでもカリモク家具は現地のノームアーキテクツと協働するカリモクケースを筆頭に、早くから継続して出展を続けたことで現地でも日本を代表するブランドとして認知されている。
Photo:Karl Tranberg
Photo:Karl Tranberg
ミラノデザインウィークのハイライトがコペンハーゲンに
Photo:Martin Sølyst
イタリアブランドが4月にミラノで発表した新作をこちらでも展示したり、ミラノで注目を集めた展示がコペンハーゲンにやってくるケースも増えている。照明ブランドのFlos(フロス)は、昨年から目抜通りの現代アートギャラリーを借りきり、ミラノのショールームで行った新作展示をコペンハーゲンでも行っている。Flos B&B Italia Groupグループの会長、ピエロ・ガンディーニ氏は「もちろんミラノには世界中から多くの人が訪れるが、3daysにはミラノに来ない北欧やドイツ、オランダ、東アジアなどの人々に見てもらえるよい機会となっている」と満足気に話していた。
また、デジタルからリアルなプラットフォームに拡張し、今年ミラノで2回目となる展示に70組を超えるクリエイターやブランドが参加し好評を博したDeoron(デオロン)も、コペンハーゲンに上陸。若手クリエイターたちが集まり、エネルギーがあふれていた。3daysがミラノで話題を集めたイベントを積極的に誘致している様子も感じられる。
3日間から一週間に、期間もエリアも拡大中
さらに、同時期に3days以外の展示やイベントも増えており、昨年からはコペンハーゲンデザインウィークという名称も聞かれるようになった。3daysに参加しつつも、自分たちのショールームや店舗をもつ企業が、会期を前後に延長して展示を行うケースも増えている。
2025年に初開催され、今年で2回目を迎えたother circle(アザーサークル)はその代表例。世界各地から約100のブランドやプロジェクトが参加し、デザインに加えてアート、ファッション、フード、音楽とジャンルを超えてさまざまなカルチャーが混じり合うプラットフォームとして注目を集めている。空間デザイン、ファッション、PRなど異なるバックグラウンドをもつメンバーにより創設され、3daysの会期に加えて翌日の土曜日も開催され、3daysとother circleの両方に出展する企業も見られた。ノアブロ地区の元工場を利用した撮影スタジオが会場で、中心地からはやや離れているものの、必見のイベントとなっている。
Photo:Claude AI
Photo:Claude AI
photo:muuto
photo:muuto
イベントが賑わう一方で、小さな街に世界中から人が集まることにより、ホテル不足や価格高騰も深刻だ。今年はホテルの値段が釣り上がることで有名なデザインウィーク期間中のミラノを超えたという話も聞こえてきた。元々物価の高いデンマークに円安も相まって日本からの出展や来場者にとっては厳しい状況が続くが、そんな時だからこそ、海外展開への道を切り開くことは重要。“Japandi”という言葉もあるように、もともと建築デザイン分野での北欧と日本の繋がりは深かったが、昨今は旅行で日本に行く人も増えたため、一般にも日本のよさが広く認知されてきている。コペンハーゲンのカフェでも抹茶ラテは大人気、ラーメン、おにぎり屋も増えていて、日本文化やブランドは人気コンテンツであり、北欧や欧州市場への進出には大きなチャンスが広がっているはずだ。
文・写真:Sanae Sato
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